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ニューロマンサー/Neuromancer

著者:ウィリアム・ギブスン
訳者:黒丸尚
カバーデザイン:木山健司
ハヤカワ文庫SF
1986年7月15日 発行
2018年10月15日 第41刷

「好きな食べ物はなに?」
「天ざるです。」

天ざるなら何でもいいわけではない。
好きな食べ物=天ざるが食べられる店は、昼時は1時間待ちするほどの蕎麦屋。
それでも、一番好きな食べ物はその店の天ざるだった。
過去形なのは、引退した先代のつゆで食べる天ざるが好きなだから。

創業100年ちょっとなので、「秘伝のつゆを継ぎ足し」方式なのか「レシピは一子相伝」なのかは知らないが、代替わりのとたんに味が変わった。
そのタイミングだっただけで、「原材料が手に入らなくなった」「この方がいい!」とかいろいろ事情があったのかもしれないけど、もう私が好きな天ざるは食べられないんだとわかった。
今でも好きな食べものは“あの天ざる”しかない。
とはいえ、往生際悪く、その蕎麦屋に行き「もしかして…」と思って天ざるを頼んでみる。
期待することは身勝手だ。

ケイスが探しているのは、私の中での「天ざる」。

「味をしっているのに、もう食べられない好物」を探すことに似ていた。
「もう一度味わいたい」

もう一度、電脳世界(サイバースペース)にダイヴするカウボーイに戻りたかった。
ケイスは、その一心だった。

そのチャンスをもらい、さっさと依頼を終わらせて自由になることを自分のためだけに望んだ。
それがとても人間らしいと思った。クローンやらサイボーグ(という言葉は使われていないけど)が多く登場する作品のなかで、「人間」を際立たせていた。
自分のために動いて、がっかりして、孤独で、「憎悪」で燃えるのが「人間」らしかった。
期待することは「人間」の身勝手だ。
これは、人間の物語だった。