memo/読書記録/戻ってきた娘
Aug 2, 2021
居場所があること
ジロ・デ・イタリア(毎年5月にイタリア全土を舞台にして行われる自転車プロロードレース)の中継を通して見た、イタリアの山並みや広大な川、通り抜ける村や町の風景を重ねて読んだ本です。
舞台は1970年代のイタリア。
13歳の少女がある日突然、自分が実子ではないと知り、理由も曖昧なまま、生家に返されるところから始まる。
今までは“町”で両親と3人暮らしで、水泳やバレエなどの習い事もできる環境だったところから、“村”にある生家は、3人の兄と年の近い妹、まだ赤ん坊の弟と両親が狭い部屋で暮らしている。
このコントラストがはっきりした土台に、今まで母と思っていた人には「叔母さん」と呼ぶように言われ、目の前の実母に対しても実感がわかず、急に「お母さん」と呼べる人がいなくなった少女の不安定さがくっきりと浮かび上がる前半。
多感な時期に大人にならざるを得なくなった“私”に、寄り添うのは、妹・アドリアーナ。
姉である“私”に村や家での生活を教え、保護者のようにいつも側にいるアドリアーナ。
大人、特に社会や夫に抑圧された母親の犠牲になった子どもたちのリレーションシップを描いた静かで力強い物語でした。