memo/読書記録/食べごしらえおままごと

May 1, 2021

文化人類学的視点

著者:石牟礼道子
カバーデザイン:川畑あずさ
カバー紙版画:坂本千明
発行者:大橋善光
発行所:中央公論社
印刷:三晃印刷
発行年数:2012年9月25日初版発行
2018年6月30日5刷発行

“食”に関する読み物が好きな理由は、とにかく、私が「くいしんぼう」だから。
料理に活字の料理がどんな見た目か匂いなのか、味なのかを想像している時間を楽しんでいます。

本著は、「苦楽浄土 わが水俣病」で水俣病の被害にあった漁民に寄り添った、石牟礼道子の食にまつわるエッセイです。
石牟礼氏の幼少期の思い出から現在(執筆時)を“食”にからめて書かれています。

父親が腕を振るう「ぶえんずし」、母親が張り切った「草餅」。
石牟礼氏の幼少期は戦前にあたり、その頃の熊本県天草、水俣の正月やひな祭り、七夕など年中行事の様子が描かれており、その様子はにぎやかで登場人物の笑い声まで聞こえてくるようなのに、何か物悲しさを感じていまうのは、もう繰り返すことのない“過去”の出来事だからなのか、方言をそのまま記すスタイルと相まって、全体的にセピア色に感じる文体です。
九州には縁がなく、福岡に一度行ったことがあるくらい。
なので、方言も郷土料理にも馴染みが薄いけれど、「故郷の食べ物」、「家族との思い出」は、故郷を持つものとして、感じるところがあり、自分の思い出を反芻するような気持ちになりました。
詩人でもある石牟礼氏らしさも随所にあり、今の季節にピッタリな部分がありました。

どの季節でもない、早春の気配を聴く頃にだけ、一種鮮烈な感情が胸をよぎるのはなぜだろう。去りゆく冬と一緒に、振り返ることのできない過ぎ来しを、いっきょに断ち切るような断念と、いかなる未来か、わかりようもない心の原野に押し出されるような一瞬が、冬と春との間に訪れる。それは、多分、かりそめの蘇生のときかもしれない。だから上古の時代から、人びとは春菜にたくして、遠い未来や近い未来を祈ったにちがいない。わたしの父や母のように。

#animation

#いったところmemo

#読書きろく